東京地方裁判所 平成9年(特わ)4489号
一
被告人
本籍
東京都大田区田園調布一丁目四七番地の一
住居
東京都大田区田園調布一丁目四七番九号
無職
野村正幸
昭和三年二月二八日生
二
出席検察官 岩山伸二
三
弁護人(私選) 植田義昭
主文
1 被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処する。
2 右罰金を完納することができないときは、二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
3 この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
【犯罪事実】
第一 被告人は、東京都大田区田園調布一丁目四七番九号に居住しているところ、平成七年自己が所有する同区田園調布一丁目三一番一〇号所在の宅地三五五・五二平方メートル及び次男である野村英司と共有する同区田園調布一丁目三一番九号所在の宅地二二七・二五平方メートル(被告人の持分は四分の一)をそれぞれ売却したが、分離前相被告人松尾玉廣と共謀の上、平成七年分の所得税を免れようと考え、松尾が、これらの土地譲渡について架空の必要経費を計上するなどして、被告人の所得を秘匿した上、実際は平成七年分の総所得金額が二一一八万一二二四円であり、分離課税による長期譲渡所得金額が一億七八四七万二〇九二円であった(別紙1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、平成八年三月一五日、東京都大田区雪谷大塚町四番一二号所轄雪谷税務署において、雪谷税務署長に対して、平成七年分の分離課税による長期譲渡所得について申告せず、平成七年分の総所得金額が二一一八万一二二四円で、これに対する所得税額が三〇〇万八七〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書(平成一〇年押第七一七号の1)を提出し、同日、東京都世田谷区玉川二丁目一番七号玉川税務署において、玉川税務署長に対して、平成七年分の分離課税による譲渡所得がなく、平成七年分の分離課税による短期譲渡所得が零であり、これに対する納付すべき税額がない旨の虚偽の所得税の確定申告書(平成一〇年押第七一七号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、正規の所得税額五四五五万〇三〇〇円と申告税額との差額五一五四万一六〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた。
第二 被告人は、愛知県豊田市平山町一丁目一〇番地レジデンス平山に居住する英司の代理人として、同人と共に共有する東京都大田区田園調布一丁目三一番九号所在の宅地二二七・二五平方メートル(英司の持分は四分の三)を売却するとともに、英司の代理人として、この土地の売却譲渡にともなう英司の所得税の確定申告手続に関与したところ、分離前相被告人松尾と共謀の上、英司の所得税を免れようと考え、松尾が、この土地譲渡について架空の必要経費を計上するなどして、英司の所得を秘匿した上、実際は平成七年分の英司の分離課税による長期譲渡所得が一億二九一〇万四七四三円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成八年三月一五日、前記玉川税務署において、平成七年分の分離課税による長期譲渡所得がなく、分離課税による短期譲渡所得が零であり、これに対する納付すべき税額がない旨の虚偽の所得税の確定申告書(平成一〇年押第七一七号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、正規の所得税額三六四三万六七〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。
【証拠】(括弧内の甲の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
全事実について
一 被告人の公判供述、検察官調書(二通)
一 分離前相被告人松尾玉廣の検察官調書謄本(二通、甲二六、二七)
一 浅田輝雄の検察官調書謄本(甲三二)
一 捜査報告書謄本(甲二)
一 戸籍謄本
第一の事実について
一 譲渡収入・必要経費・所得金額調整額(分離短期譲渡所得)調査書謄本(甲三)、譲渡収入(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲四)、取得費(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲五)、譲渡費用(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲六)、特別控除額(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲七)
一 捜査報告書謄本(甲一)
一 平成七年分の所得税の確定申告書二袋(平成一〇年押第七一七号の1、3)、平成七年分所得税青色申告決算書(同押号の2)
第二の事実について
一 野村英司の検察官調書謄本
一 譲渡収入・必要経費・所得金額調整額(分離短期譲渡所得)調査書謄本(甲一五)、譲渡収入(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲一六)、取得費(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲一七)、譲渡費用(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲一八)、特別控除額(分離長期譲渡所得)調査書謄本(甲一九)、社会保険料控除調査書謄本、生命保険料控除調査書謄本
一 平成七年分の所得税の確定申告書(平成一〇年押第七一七号の4)
【法令の適用】
一 罰条
第一の所為 刑法六〇条、所得税法二三八条一項、情状により同条二項
第二の所為 刑法六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一項、情状により同条二項
二 刑種の選択
各罪 いずれも懲役刑及び罰金刑選択
三 併合罪の処理 刑法四五条前段
懲役刑 四七条本文、一〇条(犯情が重い第一の罪の懲役刑に法定の加重)
罰金刑 刑法四八条二項
四 労役場留置 刑法一八条
五 刑の執行猶予 懲役刑について刑法二五条一項
【量刑の事情】
本件は、被告人が、共犯者と共謀の上、自分及び確定申告手続を代理していた次男の土地の譲渡にともなう分離課税の譲渡所得を秘匿して、自らの所得税五一五四万一六〇〇円及び次男の所得税三六四三万六七〇〇円を免れたという事案であり、ほ脱税額は低額であるということはできず、これらの各所得税についてほ脱税額が正規の税額に占める割合は、いずれも九〇パーセントを超えており、到底見過ごすことができるものではない。
本件は、共犯者が、脱税が発覚しないように、知り合いの税務暑職員が勤務している税務署が所轄税務署になるように被告人及びその次男の居住地を偽り、その税務署職員に賄賂を贈り、被告人及びその次男の土地の譲渡にともなう分離課税の譲渡所得について、その税務署に所得税の確定申告書を提出することによって行われたものであり、犯行の態様は芳しいものではない。のみならず、被告人は、共犯者から脱税を勧められるや、借金を負担していたことから、安易にこれを了承し、共犯者に対して四八〇〇万円を支払っている。被告人の刑事責任は決して軽視できるものではない。
他方において、本件の脱税の方法は、共犯者の発案のもとに行われたものであり、被告人はその詳細までは承知していなかった上、被告人は、免れていた自ら及び次男の所得税の本税、延滞税、加算税の全てを納付しているなど、本件により、税法上の経済的な制裁を受けており、これまで責任ある仕事に従事して、社会的に貢献してきた人物であり、本件犯行を率直に認めるなど反省の態度を示し、今後は同種の行為に及ぶことはない旨誓っているなど、被告人にとって有利な事情もある。
そこで、これらの事情を総合して考慮し、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処した上、その懲役刑の執行を猶予することとした。
(裁判官 山口雅髙)
別紙1
修正損益計算書
自 平成7年1月1日
至 平成7年12月31日
野村正幸
<省略>
別紙2
ほ脱税額計算書
平成7年分
野村正幸
<省略>
※差引所得税額欄の( )はそれぞれの申告税額である。
別紙3
修正損益計算書
自 平成7年1月1日
至 平成7年12月31日
野村英司
<省略>
別紙4
ほ脱税額計算書
平成7年分
野村英司
<省略>